明王
不動明王
真言:ノウマク・サマンダ・バザラダン・センダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウンタラタ・カンマン
密号:常住金剛
不動明王(ふどうみょうおう)は、不動尊、無動尊とも称し、堅固不動の浄菩提心を持っています。大日如来の教令輪身であり、その教えに障害となる煩悩を断滅し、奴隷三昧を誓願して如来に使えることから、不動使者とも称します。
その本誓は、姿を見たものに菩提心を起こさせ、名を聞いたものに悪を断ち善を修させ、教えを聞いたものに大智慧を得させ、心を知り得たものを即身成仏に導くというものです。
容姿は青黒色の童子形にして、右手に利剣、左手に羂索を持ちます。頂に莎髻があり、左肩に辮髪を垂らし、左目を細め、右下の牙で上唇、左上の牙で下唇を噛み、額に水波の皺を浮かべます。火生三昧に住して、大磐石の上に在ります。光背の火焔は迦楼羅の形をとり、右手の利剣には倶利伽羅竜王が纏わりつきます。異形もありますが、多くは以上のような容姿をしています。
大日如来の教令輪身として一切衆生に浄菩提心を起こさせ、また明王の中尊として護摩供養の本尊となり、所願成就の現世利益を得させます。日本では弘法大師による本格的な請来以降、最も広く信仰を集める仏様です。
孔雀明王
真言:オン・マユラキランテイ・ソワカ
密号:仏母金剛
孔雀明王(くじゃくみょうおう)は、毒蛇の天敵とされる孔雀を神格化した明王であり、蛇の毒を治癒し、人々を守る尊格として、古代インドで古くから確立されていました。
その本誓は、一切衆生を煩わすの災難、厄難を消除し、息災延命、大安楽を得さしめるというものです。
容姿は明王特有の忿怒形ではなく、仏母としての菩薩形となっています。一面四臂で金色の孔雀の上に結跏趺坐し、持物は左右の第一手に吉祥果と開敷蓮華、第二手に三五茎の孔雀の尾と倶縁果を持っています。
日本では奈良時代には知られており、明呪の験得が最勝である孔雀法の本尊として、修験道の開祖である神変菩薩(役小角)に大いに信仰されていました。また、鎮護国家や請雨の功徳の法としても重視され、密教特有の明王として、広く知られています。
愛染明王
真言:オン・マカラギャ・バザロウシュニシャ・バザラサトバ・ジャク・ウン・バン・コク
密号:離愛金剛
愛染明王(あいぜんみょうおう)は、衆生が本来持っている愛欲貪染をそのまま浄菩提心とし、大乗仏教の根本となる煩悩即菩提をそのまま表象する明王で、その本地身は菩提心の象徴である金剛薩埵です。
その本誓は、その名の如く一切衆生の敬愛を司り、愛欲のみに溺れる衆生の心を、浄菩提心へと転化するというものです。
容姿は忿怒形の一面六臂三眼にて、身は赤色、頭上には獅子冠を戴いています。持物は左右の第一手に五鈷金剛杵と金剛鈴、第二手に弓と箭、第三手に金剛券と蓮華を持っています。また、赤色の日輪を背にし、宝瓶の上の蓮華に結跏趺坐しています。
明王の中でも、不動明王と並び中心的な尊格とされています。そのため、愛染明王と不動明王の両頭を持った、両頭愛染明王などの例もあります。ただし、その信仰は特異な本誓のため、単独尊の場合が多いようです。
降三世明王
真言:オン・ソバ・ニソバ・ウン・バザラ・ウン・ハッタ
密号:三世金剛
降三世明王(ごうざんぜみょうおう)は、五大明王の一で東方金剛部の忿怒身です。その名の意味は、過去、現在、未来の三世を降伏する者、心に宿る貪瞋痴の三毒を降伏する者、三界の主を称する大自在天(シヴァ神)を降伏する者からなります。
その本誓は、三世の煩悩を金剛をもって摧破、降伏し、一切衆生の菩提心を証せしむるというものです。
容姿は四面八臂三目が一般的なものです。持物は左右の第一手で降三世印を結び、第二手は五鈷鉤と金剛杵、第三手は弓と箭、第四手は索と利剣を持っています。また、左足で大自在天の頂、右足で烏摩妃を踏み、仏教に従わないものを降伏する意をもっています。
金剛界では大日如来の教令輪身であるため、明王の中でも不動明王と並び重要視されており、金胎不二の証左として、不動明王と一対で信仰されることがあります。
軍荼利明王
真言:オン・アミリテイ・ウン・ハッタ
密号:甘露金剛
軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)は、五大明王の一で南方宝部の忿怒身です。その名は軍持(瓶)の意を持ち、甘露を容れる器であることから、甘露軍荼利とも称します。
その本誓は、諸々の障礙や困難である毘奈耶迦を、諸事を弁じて、甘露によって辟除し、一切の汚れを清浄にせしむるというものです。
容姿は一面八臂三目にして、持物は左右の第一手で羯磨印を結び、第二手は宝輪と三鈷杵、第三手は頭指を立た拳印と三叉戟、第四手は施無畏印と金剛鈎を持っています。また、首、八臂、両脚に煩悩を表わす蛇を瓔珞として飾り、煩悩即菩提を表わしています。
甘露とはインドにおいては不死の霊薬であり、そのため疫病を象徴する毘奈耶迦を辟除します。また、毘奈耶迦の王はガネーシャ(歓喜天)であり、この尊も支配するとされています。
大威徳明王
真言:オン・シュチリ・キャラロハ・ウン・ケン・ソワカ
密号:威徳金剛
大威徳明王(だいいとくみょうおう)は、五大明王の一で西方蓮華部の忿怒身です。その容姿から、別名を六足尊ともいいます。古代インドではヤマーンタカと呼ばれ、死を征服する者の意を持っています。また、チベットでは文殊菩薩の化身とされています。
その本誓は、死をもたらすような怨敵魔縁を制して、一切衆生を無上の菩提に引入するというものです。
容姿は六面六臂六足三目という他に例のない異形で、髑髏を瓔珞とし、白い水牛に乗っています。持物は左右の第一手で独鈷印を結び、第二手は三叉戟と利剣、第三手は宝輪と棒を持っています。六足のうち左の三足は牛の背に乗せ、右の三足は垂下しています。
前述の通り、死を制するという威力から、日本では勝軍の本尊として、戦勝祈願のために重視されてきました。そのため、その独特の容姿を持ちながら、単独尊としての信仰も多く残っています。
金剛夜叉明王
真言:オン・バザラヤキシャ・ウン
密号:護法金剛
金剛夜叉明王(こんごうやしゃみょうおう)は、五大明王の一で北方羯磨部の忿怒身です。金剛界曼荼羅の十六尊の中の金剛牙菩薩や般若理趣経に説く摧一切魔菩薩と同体であり、一方で胎蔵曼荼羅にはその姿がないことから、金剛界特有の明王ということになります。
その本誓は、三世一切の衆生の心の不浄を喰らい尽くし、速やかに無上菩提を証せしめるというものです。
容姿は三面六臂であり、中心面は五眼を持つ五大明王の中でも一際恐ろしい姿をしています。持物は左右の第一手に五鈷金剛杵と金剛鈴を持ち、その取り方は金剛界の金剛薩埵と同じです。加えて、第二手は弓と箭、第三手は宝輪と利剣を持ち、右足は小蓮華を踏み、左足は屈して振り上げています。
金剛杵の力を具えた夜叉という名から、インド神話の悪鬼に由来すると考えられ、その起源はかなり古い明王と思われます。ただし、五大明王の中では、あまり単独尊として信仰はされてはいません。